「コールサック」日本・韓国・アジア・世界の詩人

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日高 のぼる (ひだか のぼる)

<経歴>

1950年、北海道生まれ、埼玉県上尾市在住。

詩集『緑色のマフラー』『どめひこ』『付添の詩』『バザールの少女』『光のなかへ』

「いのちの籠」同人。二人詩誌「風(ふう)」発行人。「詩人会議」会友。

原水爆禁止日本協議会勤務。



<詩作品>

約 束

あなたといまかわしていた話も
過ぎ去った時間のなかにある


あなたの一番美しかった時代
そして残酷なときを過ごした
広島へいこう の約束も
あなたの記憶にはすでにない


記憶の谷間からすべり落ちた約束も
未来の時間を確かめながら
したはずなのに
忘れられた約束は
まちぼうけ
くらったまま


過去の記憶のなかに
ぽっかりと
未来への道を開けていた



光のなかへ
証言―ヒロシマの少女の記憶から


かたときも忘れることのできない光景を
少女は瞳孔の奥のスクリーンに焼きつけていた

かたときも忘れることのできない光景を
少女は瞳孔の奥のスクリーンに焼きつけていた

瓦礫に埋もれた ヒロシマの街
道の両側のおびただしい屍
地鳴りのように
水を求めるにんげんの声
手をさしのべるにんげんの群れ
そのなかに
小さく立っていた物体
おじぞうさん と思った
異臭ただようなか
少女は姉とできるだけ見ぬように
坂の下の自宅へ急いでいた


丸みをおびた黒いその物体の横を
通り過ぎようとしたとき
思いがけぬ声を聞いた
はっきりと姉の名を呼んだのだ


その瞬間ふたり
一目散に走りだした
ふたたび通ったときは
もうなにも立っていなかった


だれ? と聞き返せずに
五十年が過ぎた

街の景色は変わり
ヒロシマを忘れさせようとする輩が
原爆の痕跡をぬぐいさろうとしても
おじぞうさんは
そこに立っている
うすれた記憶のなかで
ひたすら家族の迎えを待ちつづけ
ふたたびヒバクシャをつくらせないと
たちあがるひとたちの
ひとみから
あふれる 光のなかへ


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「コールサック」(石炭袋)120号 2024年12月1日

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